SECTION1
前科・犯罪歴
前科・犯罪歴がある場合は、素行要件を満たせない恐れがあります。ただし、実刑を受けた日から相当年数が経過している場合は、申請できる可能性もあるでしょう。
例えば実刑有罪判決(罪があると裁判で判断されること)を言い渡されて刑務所に服役していた人は、刑務所から出所後10年以上経過してから帰化申請すると、許可される見込みはあります。
ただし、帰化申請の際に前科・犯罪歴について隠してしまうと、審査の途中で発覚して不許可になる可能性があるため、嘘ではなく事実を記載することが大切です。
SECTION2
破産歴
「破産(はさん)」とは、自身が持っているお金や住居などの財産を全て失うことです。
また「借金を支払う力がない」などと裁判所に認められた場合は、借金の返済が免除される「自己破産」という手続きができます。
自己破産の履歴がある場合も、帰化申請は可能です。ただし、自己破産の経歴がある人が帰化申請するには、自己破産が確定後、復権(破産によって失った本来の権利を取り戻すこと)してから7年の期間が必要とされています。
特別永住者の場合は、借金支払い義務が免除(免責決定という)されてから約2年経過していれば、申請を受け付けてくれる可能性があります。
SECTION3
重加算税
納税額の申告を偽ったり、事実を隠ぺいしたりして「重加算税(じゅうかさんぜい)」を課された経歴があると、帰化申請の審査で不利になります。帰化申請を実施する書類の中には「納税証明書」が含まれているため、審査で不許可となる恐れがあるのです。
ただし、きちんと修正申告(※)した上で納税している場合、2~3年程度の期間を置いてから申請すれば許可を得られる可能性が高いでしょう。
※「修正申告(しゅうせいしんこく)」とは、所得税の確定申告で正当な納税額よりも少ない税額を間違えて申告をした場合に修正する方法のことです。
SECTION4
運転経歴
自動車の運転経歴で違反行為があると、素行要件を満たせない可能性があります。運転経歴として問われる内容は、違反行為の時期や頻度、行政処分の回数などです。これらの経歴から総合的な判断が下されることが特徴です。
一般的に、一旦停止や路上駐車などの軽い違反が「過去5年間で5回程度」なら、審査であまり不利にならないとされています。また、特別永住者の場合は、やや緩和されるケースもあります。
SECTION5
交通事故
運転手として交通事故を起こした場合、素行要件を満たしていないと判断されるかもしれません。ただし、基本的に対物事故の場合は保険会社が仲介してくれるため、審査にあまり影響しない傾向です。
一方、対人事故の場合は相手に事故の後遺症などが残り、示談(話し合いのこと)が長引いて帰化を申請できないケースもあるので注意しましょう。
また、審査期間中に交通事故を起こした場合、帰化申請から許可が下りるまで1年ほどの期間を開けなければならないケースもあるため、日頃から安全運転を心がけることが大切です。
SECTION6
納税状況
所得税や住民税などの直近1~2年分の税金を、滞納せずにきちんと納めていることが重要なポイントです。万が一、税金を滞納している状態になっている場合は、帰化申請を行う前に納めておきましょう。
会社員の場合は特別徴収(※)による住民税の納付や、所得税を天引きした給与支払いが実施されているため、基本的に問題ないでしょう。しかし、個人事業主や給与からの税金天引きされていない人は要注意です。
※特別徴収(とくべつちょうしゅう)とは、事業主が従業員の代わりに毎月の給与から住民税を差し引いて納税する制度のことです。
特に会社を経営している人や、会社を経営する親族の収入で生活している人は、運営する会社の過去2~3年分の「法人税」「法人事業税」「法人県民税」「法人市民税」が納税されているかについてしっかりと確認しておきましょう。
なお、納税状況の確認に関しては「同居している人全ての確認が必須」であるため注意が必要です。例えば滞納者と同居している場合は帰化申請が通らない恐れもあり、最悪の場合は別居して一人暮らしを検討しなければなりません。
SECTION7
国民年金の支払い状況
国民年金の支払い状況も、素行要件を満たす上で大切なポイントとなります。厚生年金に加入している会社員の場合は、基本的に会社側が被保険者分の厚生年金を天引きした上で、給与を支払ってくれるため問題ないでしょう。
仮に国民年金が1年分未払いであったとしても、まとめて1年分の国民年金を支払うことで素行要件を満たせるようになります。また、収入が減少や失業などの関係で国民年金の支払い免除制度が適用されている場合も問題ありません。
国民年金の免除は「全額免除」「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」の4つの段階に分かれています。免除から10年以内であれば、追納(保険料をさかのぼって納められる制度のこと)することで老齢基礎年金の受給額を満額に近づけられるため、必要に応じて制度利用を検討するとよいでしょう。
SECTION8
生活保護
一般的に、生活保護を受給している人は、帰化申請の通過が難しくなりがちです。というのも、生計面での条件に引っかかる可能性が高く、自立して収入を得ている人に比べて審査に通る確率はどうしても下がってしまうためです。
ただし、「申請者本人が生活保護を受給しているケース」と「家族が生活保護を受給しているケース」のどちらに関しても、審査に通るかどうかは実際に申請しないと分かりません。まずは、申請に向けて準備することが大切です。
SECTION9
家族の素行について
帰化申請者の家族に犯罪歴所持者がいる場合も、基本的には帰化申請の審査に影響はありません。帰化申請の審査で問われるのは、あくまでも「申請者本人の素行」であるためです。
SECTION10
その他
ここまで紹介したポイント以外で、素行要件として問われる可能性があるのは以下の通りです。
- 他社と揉め事を起こしている
- 訴訟(裁判所に訴えられること)を起こされたことがある
- 借金したまま返済していない
- 不貞行為(※)をはたらいて問題を起こしたことがある
ただし、これらの問題に関しても適切に解決した上で年数が経っていれば、素行要件を満たせる可能性があります。
※不貞行為(ふていこうい)とは、配偶者(夫や妻)以外の人と性的な関係を持つ行為のことをいいます。
次に、素行要件のポイントを「法人経営者」と「個人事業主」の事業者別に紹介します。
法人経営者の素行要件
帰化申請者が法人経営者(会社の取締役、監査役として登記された人)、もしくは対象の会社からの収入で暮らす同居人などの場合は、以下のポイントに気を付けましょう。
- 経営会社の全てが社会保険加入事業所となっている(※)
- 法人税や法人住民税、法人事業税、消費税などの滞納がない
- 直近決算が黒字で、今後も安定的な経営状態が見込める
- 重加算税などを課されていない
- 事業に必要な許認可を全て取得している
※従業員が全て外国人の場合や社長一人の場合も、法人は社会保険(健康保険+厚生年金保険)の加入が必須です。
なお、事業の決算期のタイミングに合わせて帰化申請を実施することで、申請に必要な法人関係書類を効率よく準備できるでしょう。
個人事業主の素行要件
帰化申請者が個人事業主、もしくは対象の事業主の収入で暮らす同居人の場合は、以下のポイントに気を付けましょう。
- 社会保険の加入義務(※1)を守っている
- 個人事業税や所得税、消費税(※2)などの滞納がない
- 直近決算の所得で同居人全員が問題なく生活でき、今後も安定的な事業が見込める
- 節税目的で、100万円以下などの低所得で確定申告していない
- 重加算税などを課されていない
- 事業に必要な許認可を全て取得している
※1.製造業や解体業などの「適用業種」で、「従業員を5人以上常時雇用」している個人事業主は、社会保険の加入義務があります。
※2.売上高1,000万円以下であれば免税事業者となり、消費税の納税義務は発生しません。
帰化申請を行う際は直近1年分の確定申告書(控え)が必要となり、場合によっては5年分の申告書提出を要求されることもあります。